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声帯萎縮症・加齢による声枯れの治療
最近では人生100年と言われ、高齢化社会をどう生きていくのかということが言われるようになって久しいです。総務省のデータによれば2025年は総人口1億2066万人、老年人口(65歳以上)3653万人(30.3%)、2045年は総人口1億221万人、老年人口3657万人(37.7%)と予想されています。
院長も20年後には老年人口の中に入りますので、もちろん自分のこととして考えていかなければなりません。
声がかすれてきたかな?
さて、最近声が枯れてきたとかかすれてきた、昔のように声に張りがなくなったとか歌えなくなった、など特に体に不調があるわけではないけれど声の症状で心当たりがある方がおられるのではないでしょうか。
声帯は筋肉の上に組織が被さっている構造をしています。声を出すときには息の力で声帯を振動させています。音声学で言いますと安定した声を出すためには呼吸の力、声帯を締める力、滑らかに舌やのどを動かす力が必要になります。
足腰が安定していないと走ったり飛んだりということはだんだん出来なくなってきます。そして外に出て動かなければだんだん歩くこともしんどくなってきます。院長もアンチエイジングではないですが、フルマラソンを年に1度は走るようにトレーニングをしています。でも小学生の頃はできた逆上がりはもうできないですね。このことと同様に人間が相応の体を使えるようにトレーニングをするということが基本です。それは喋ること、歌うことでも同じことです。
声帯のシワみたいなもの
本題の「声帯萎縮症」に戻ります。難しく言っておりますが、言いかえれば声帯が痩せてきたことによる声がれのことです。前述のような症状があり声が悪くなった、あるいは悪くなったと感じている方は一度ご相談ください。
声帯が痩せて、声帯に窪みのような影ができてきます(シワみたいなものです)。幼児の声、少年少女の声、大人の声、お年寄りの声それぞれ大体聞くだけで聞き分けることができますね?やはり年齢が増すと声にも変化があって当然です。でも人間はそれに抗いたいものです。自分が歳をとったことを認めるのはわかっていても嫌なものです。
どのように治療するのか
では声帯萎縮症の治療は、「声を出すこと!」これが一番です。よくないのは「声が出にくくなってきたので黙っています」という人。どんどん声を出すことが大事です。適度におしゃべりやカラオケに行くことは良いことです。
一人暮らしで喋ることがないという方にも、新聞のコラムを声に出して読んでみる、一日一曲歌の練習をする、般若心経を唱えてみる、など工夫をするとできることもあります。
言語聴覚士による音声治療では声を出すやり方を指導します。ストローを使ったチューブ発声法(semi-occluded voice tract exercise)など簡単にできる発声効率を改善する方法があります。声を出すことが楽しくなればそれに越したことはありません。また医院に受診していただくだけでもそれが社会と関わりを持つことになり、運動にもなり声を出す機会が増えるというものです。一人で悩まないということは重要でしょう。
どのように治療するのか
当院で治療を行った声帯萎縮症の治療効果については日本音声言語医学会に論文として掲載されています1)。論文では19人の方のデータをまとめて音声治療により声を出す訓練をすることにより声帯萎縮の症状を改善する効果があることを示しています。仕事をリタイアしてから日頃声を使わなくなった方は、トレーニングすることで声がよくなり、声を出しやすくすることが出来ます。
逆に声を使っていても声が悪くなったと言う方のほうが治りにくいと言うことがわかりました。声を使っている方はトレーニングをしていることになりますので、同じことをしても日頃トレーニングをしていない方のほうが効果的であるのは当然の結果かもしれません。
似た病気の声帯溝症
一方これに似た声の病気で「声帯溝症(せいたいみぞしょう)」があります。同様の声帯の見た目になることがありますが、若い方でも溝症による声がれの方がいます。声がれの原因は同じように声帯の閉じが悪いことなのですが、もともとそのような声帯の方と、だんだん悪くなってきた方では対応が異なります。声帯溝症では喋り声はかすれていますが、声を張るととても良い声になったり、魅力的な歌を歌う歌手の方もいます。
筋力を使ってある程度コントロールが効くということになります。現在の状況が悪くなってきた状態なのか、元からそうであるのか、声が悪いことが生活を送る上で困るのか、総合的に判断して治療する必要があり、よく相談することも大切になります。
師匠であります文珠敏郎先生が書かれた声の悩みを解決する本や山王病院・東京ボイスセンターの渡邊雄介先生が書かれた「フケ声が嫌なら「声筋」を鍛えなさい(晶文社)」2)にも詳しく声のトレーニングの必要性が書かれていますので是非参考にしてみてください。
【参考文献】
1) 南部 由加里(二村耳鼻咽喉科ボイスクリニック), 二村 吉継, 森 祐子 他:声帯萎縮症例に対する音声治療の検討 -加齢による音声障害への対応-;音声言語医学 60巻1号 ,Page43-51, 2019年 (原著論文)
2) 文珠敏郎著:声の悩みを解決する本 音声専門医35年―「文殊の知恵」のひとりごと. 現代書林, 2016年
3) 渡邊雄介著:フケ声が嫌なら「声筋」を鍛えなさい; 晶文社, 2018年